今までの項を見ていただいてわかるとおり、ヨーロッパ言語圏外の人間にとって冠詞とはとても複雑で難しいものです。ここではさらに例外的なものも見ていきます。また、冠詞からは少し外れる概念にも触れます。
◎countable/uncountable
高校レベルくらいで可算名詞、不可算名詞を習ったはずです。なぜこんなものがあるのか私にもよくわかりません。a knowledge, an information, an equipment, a news, などというと不正解なのです。この概念はドイツ語にも無く、ほぼネイティブレベルの英語を操る人でさえほぼ確実にここで間違えるのでわたしはいつもぷっと笑いそうになります。どうしても数を言いたいときにはtwo pieces of equipmentといえば文法的には正しいです。ただ聞いたことが無い気がします。
また、さらにこれを複雑にするのは種類を指し示す場合には数えることができる点です。基本的に粉、液体系の物体、食品、例えばwater, ketchup, など不可算なのですが、「ケチャップのうちの1ブランド」という意味で使う場合数えられます。例えば
There are three (different kinds of ) ketchups in this supermarket. このスーパーには三種類のケチャップが売っています。コーヒーを二杯頼むにはCan I have two cups of coffee, please? といいますが、two coffeesもよく聞きます。
お判りでしょうか? べたっとした液状のケチャップを言っているときには不可算ですが、Heinzとかカゴメとかブランドを言っている場合には当然数えられるのです。 コーヒーも同じことですね。 ぴちゃっとした液体のコーヒーは不可算ですが、カップに入った売り物としての一単位をコーヒーとしている場合には数えられます。 ただ私の直感としてはこのコーヒーの運用は文法的に逸脱している感があります。 two cups of coffeeは長過ぎて面倒なのでしょう。
◎固有名詞
通常固有名詞には冠詞をつけません。ただ例外的に以下のような運用があります。
A Mr. Yamada has phoned you. 山田さんという方から電話がありました。 ここではAをつけることで誰だか知らないけど山田という人から電話があったという意味になります。お互い誰だか知らないのでその山田さんは話題のテーブルの上にいません。それ以外の世界から突然一人の山田さんが無作為に出てきたため、aがつくのです。
The Alexander アレクサンダーは名前です。でも例えば同じ部署に二人のアレクサンダーがいたらどちらか特定できないのでどちらかに限定された時点でtheが付きます。実際には何らかの形容詞を間に挟む場合が多いでしょう。
◎固有名詞を構成する一般名詞
The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland イギリスの正式名称です。なぜtheが付くのか?このtheはKindgomにかかっています。kingdomは一般名詞です。スウェーデンとかモロッコとかその他ほかにも世界中に王国があるにもかかわらず、ここではイギリスに限定しています。 ofからあとで、それは明らかです。グレートブリテン島と北アイルランドにある連合王国です。だからtheが付くのです。 The United States of Americaも同じことです。省略してThe UK, The USA, the US, the statesといいます。もちろんUSAと冠詞が省略される場合もあります。でもUSが形容詞として使われる場合は話が別です。The US Armyというと一つに限定されますが、A US diplomatならたくさんいるうちの一人なのでa/theどちらもありえます。
さらに似たようなものとしてthe Iberian Peninsula イベリア半島もあります。半島は一般名詞ですが、地名をつけることで特定の一つに限定されてtheが付きます。 私の持っている本には「例外」として書いてありますが、これがどう例外なのか私には理解できません。論理的に当たり前のことのはずです。
◎地域差
なぜか英語圏でも国によって多少ぶれがあります。例えば日付にはカナダではthe 15th of Januaryとtheになりますが、アメリカではなにもつけず15th of Januaryとなります。また、それ以外にも文脈上aでもtheでも差し支えない場合があります。私の説明をきちんと理解された方はどちらでも当てはまる場合がたくさんあることにうすうすお気づきでしょう。例えば
I wouldn't get into the decision-making process.
私はその意思決定のプロセスには関与するつもりは無い。 これだとこの特定の意思決定プロセスに関与しない、と言う意味ですが、ここで
I wouldn't get into a decision-making process.
と言うと一般的に言って私は意思決定に関与しないと言う意味になります。
でも、何らかの意思決定について話しているときにaを使ってもtheを使っても、とにかくこの意思決定プロセスにかかわるつもりが無いことを示すことができます。
ここでどれを選ぶかは地域差が出るというお話を聞いたことがあります。英語ではないですが、ドイツ語ではこのようなどちらでも良い場合にほとんどtheに相当する冠詞がつきます。イギリス人やオーストラリア人はいまだに何を言っているのかよくわからないので私にはコメントできません。 ちなみにドイツ語ではありえない場所にtheがつきます。一人しかいないAlexanderにtheが付いたり、また、スイスやトルコなど一般名詞が入っていない国名にtheが付いたりします。英語もいくつかこんな例外があったような気がします。
なんだかとても難しい話になってしまいましたが、文章を読むときにはなぜここにtheなのか、なぜaなのか、時々考えてみてください。そして理解できなければ辞書の定義と見比べて確認してみてください。そうすることであなたの冠詞脳が少しずつ形成されます。
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